≪スタッフ・有志の連載≫
 <第52回> 風の音にぞ…
 ============ by 漂鳥

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  第52回 小さきものへ
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5月の声を待ちわびたかのように、ウツギの仲間が次々と花開き始めています。早くから咲いていた卯の花(ヒメウツギ)は真っ白で小粒の花をいっぱいに咲かせます。タニウツギの仲間は、赤やピンクにその身を染め、なにやら妖艶な感さえ否めません。山地の林縁に清楚な白花を咲かせるのはノリウツギですが、こちらがアジサイ属であるのに対し、よく似たヤブデマリはスイカズラ科ガマズミ属に分類されています。
まあ細かな分類はともかく、このウツギの花が目立つようになると、夏の初めを実感する人も少なくはないでしょう。春のそれよりも、初夏の光はより力強く明るく輝き、そんな光の下で、まるで自然の神々から手放しの祝福を与えられたかのように花開くウツギたちが、朗らかに大らかに歌っています。

ベニウツギ ヤブデマリ


仲春あたりからからこちら、例年であれば夏鳥の飛来を見たくてにそちこち出かけるところですが、今季、私はずっと原っぱの小さな花ばかり見つめていました。様々な野の花たちの、来し方行く末を案じながらの観察です。あるものは遠くヨーロッパやアメリカから運ばれ、彼らにしてみれば遠い異国である日本の地に根を下ろし、生まれ育った環境とはずいぶん違う境遇にうんと戸惑いながらも逞しく生き抜いてきました。それどころか、種によってはこの地の土質や気温、日照時間、水分量などに見事に適応し、原っぱを占拠する強者もいるのです。古くは日本に農耕がもたらされた時代に帰化し、もうほとんど日本の植物のような顔をして暮らしているもの(史前帰化植物)から、江戸時代以降意図的に、ないし偶然に持ち込まれた種子が定着し、繁茂するものもあります。

帰化植物と言えばまだ聞こえは良いものの、外来種などという乱暴で味も素っ気もない呼び方をされ、なかにはその旺盛な繁殖力から「特定外来生物」などというイヤ〜な名を付されて嫌われ者になっている種が、これは動植物全般において多く見られます。またこれに準ずる種として「要注意外来生物」が指定されています。セイタカアワダチソウ然り。ここ最近、あまりにもその繁茂ぶりが目立つ(色鮮やかなので、余計に目立つせいもあるでしょう)ナガミヒナゲシ然り。動物界でも同じですね。ブラックバス類は、釣ってそのファイトが面白くて人気があるようですが、淡水魚の稚魚を根こそぎ食べてしまうので、もうずいぶん前から「特定」の方に指定されています。池の中に在来種のクサガメやイシガメが見当たらず、我が物顔に泳いでいるのはミシシッピアカミミガメ(ミドリガメ)ばかりというシーンはよく見かけます。

原っぱに戻りましょう。
そこに自生する植物種をよくよく見てみると、実に多くの帰化植物を認めることができます。春先からここまで、目についたものをランダムに例に出してみましょう。

ホトケノザ(在来種) オオイヌノフグリ(帰化植物) ナズナ(帰化植物) ハハコグサ(在来種) スズメノテッポウ(帰化植物) ハコベ(在来種) ノゲシ(史前帰化植物) オニノゲシ(帰化植物) ノボロギク(帰化植物) ヒメオドリコソウ(帰化植物) ハルジオン(帰化植物) ヒメジョオン(帰化植物) マツバウンラン(帰化植物) カタバミ(在来種) ムラサキサギゴケ(在来種) アメリカフウロ(帰化植物) オニタビラコ(在来種) キュウリグサ(在来種) シロツメクサ(帰化植物)

原っぱを構成する背の低い、俗にいう雑草ばかり19種ほど取り上げてみましたが、やはり半分以上が時期こそ違え、海を越えて帰化した草たちなのです。
いまここに取り上げた草たちは、実は互いに熾烈な生存競争を繰り広げているのですが、一種だけが突出することなく一見うまく協調し、共存しているかのように見えます。けれどもなかには異常なほどに繁茂し、他の植物や野菜などに多大な影響(被害)をもたらす恐れのあるものを、先述のように環境省が「特定外来生物」(2017年現在、動植物合わせ132種)に指定しています。よく知られているものではアライグマ ウシガエル バス類 オオキンケイギク アレチウリなどがあります。本通信をお読みいただいている皆様の関心が深いであろう鳥類は、カナダガン ガビチョウ カオジロガビチョウ カオグロガビチョウ ソウシチョウの5種が指定されています。
さらにこれに準ずる危険種?として「要注意外来生物」があります。先に述べたナガミヒナゲシや、秋の野を彩るコセンダングサ・アメリカセンダングサなども含まれています。

さてそれらの危険種を、今後どう扱ってゆくべきかにつき様々な意見があるようです。私たちはともすればそれらの生き物の外見に左右されがちになります。セアカゴケグモのように、毒があって危険であると喧伝されれば、その防除に反対の意を唱える方はほぼ皆無でしょう。
2010年に関東地方で最大100羽ほども確認され、その後特定外来生物に指定されたカナダガンは、官民の協力により防除(駆除)され、現在では日本での生息数はゼロになったことを知る人は、バーダーなら多いことでしょう。しかしながらシジュウカラガンを大型にしたような存在感のあるカナダガンを駆除することに抵抗を感じた方も、実際は少なくなかったことでしょう。人の感情とはまことに勝手で、クモなら痛みも感じないが、鳥は可哀相ということになるのでしょう。

近年、路傍といわず街中の道路の中央分離帯にまで侵出している、けれどもそのオレンジ色の花がなんともきれいなヒナゲシを知らない方はほとんどいないでしょう。花の名はナガミヒナゲシ(長実雛芥子)。1961年に東京は世田谷で初めて確認されたといいますから、その歴史はかなり新しいものです。けれどもその繁殖力は並外れていて、いまや日本全国で見られるようになりました。芥子の仲間なので、その種子が砂粒のように小さく、一つの果実の中におよそ1600粒の種子があり、1個体には100個ほども果実ができることもあるので、そこで生成される種子の数は実に15万個に及ぶといいますから、どんどん増えてしまうのも頷けます。路肩などにも進出できるのは、種子が車のタイヤなどに付着して運ばれるのでしょう。
アヘンの原料となる芥子独特の成分こそ含んではいないものの、近年の研究でその根と葉からは周辺の植物の生育を強く妨害する物質が生み出されていることが分かり、農作物や草花への影響が懸念されています。

ところがこの花、なんともいえず可愛いのです。そのオレンジ色が周囲の緑に映えて美しく、猛々しさなど微塵も感じさせることはありません。ですので、もしこの花を防除(駆除)しなさいと言われたら、そ、そんなこと…、とはたと頭を抱え込むに違いないのです、私ならば。

とある植物学者は、ナガミヒナゲシについてこう述べています。
―私もこの花の愛らしさに惹かれる一人です。けれども見方によっては「特定外来生物」以上の繁殖力と影響力を持つこの植物の力を無視することはできません。米、ジャガイモ、サツマイモ、トマト、リンゴなど、日本人の食する食べ物の多くが外国から来ています。私は外来植物がすべて悪者だというわけではなく、今後も新しい有用外来植物は農業に利用すべきであるが、生態系への大きな影響のあるものは取り締まるべきだと考えます。外来植物とどのようにつきあうか、どのような植物は駆除すべきで、どのような植物とうまくつきあうか、今後もこのような外来植物の基礎研究はきわめて重要でしょう。

植物に興味がありますが、個人的に野草が殊のほか好みです。それも丈の低い、ときに邪魔者扱いされてしまう“雑草”に目が行きます。ただではすべての草に興味が、と問われれば、さすがにそうもいきません。でもその年々で“新たに出会えた花”があります。新たに出会えたとは、初めて見たということではなく、その草の魅力につき新たに発見したというほどの意味です。
この春、私はマツバウンラン(松葉海蘭)に出会いました。地元の農地の休耕畑、つまり原っぱで普通に見かけられる草です。その存在はずっと前から見知っていましたが、今季、何気なく通りかかった原っぱを埋めつくすその姿に、思わず感じ入ってしまったのでした。その繊細な立ち姿、薄紫のどこまでも優し気な色合い、これほど繁茂しているにもかかわらず、どこにも力を感じさせない控えめな様子がまことに好ましいのです。

ナガミヒナゲシ マツバウンラン マツバウンラン


しかしながらこのマツバウンランもまた帰化植物です。まして原っぱを占拠するほどの繁殖力は、もしや他の植物にとっては脅威なのではないかと考えると、私はにわかに落ち着きをなくしてしまうのです。
こんな愛らしき2種だけではなく、ムラサキカタバミやアメリカフウロのような小さな帰化植物でも、他への影響が甚大であるならば、そこは防除という選択を迫られても仕方ないのでしょう。
仕方がないと理解はしている積もりなのですが、私の浅はかな感情が精一杯の根拠のない抵抗を試みます。

―あれほど恐れられたセイタカアワダチソウだって、結局自家中毒を起こして爆発的な繁茂は収まったではないか。いまやセイタカアワダチソウの黄色い花は、日本の里の秋を彩る素敵な脇役になっているではないか。奢れるもの久しからず、いずれナガミヒナゲシもマツバウンランもその勢いを失う日が来るに違いない。だから駆除に着手するのは、もう少し様子を見てくれないだろうか…。


小さなものに目が行きます。花も虫も、小さいものはよりいじらしい。人に踏まれても、少々鳥などに食べられても、小さな命はそんなことでは尽きることがありません。その小ささとはうらはらの内に秘めた強靭さに、なお惹かれてやみません。

小さきものよ、己の小ささを決して恥じることはない。
己の出自を呪う必要もない。
なんとなれば、そなたらは神が与えたもうた唯一無二の造形と色合いと精神とを合わせ持つ、稀有な存在なのだから。
小さきものよ、お前の矜持を胸に秘め、雄々しく、けれども優雅に生きるがよい。

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(了)