≪野鳥観察情報≫
   バードウォッチングのミカタ
 ======== by 松田 道生さん

──────────────────────
  第72回 夜の鳥は暗い中で撮る
──────────────────────

今回、文一総合出版から出版された『鳴き声で調べる野鳥図鑑』の制作にあたっては、新鋭の野鳥カメラマンS原さんといっしょに仕事をしました。この本は四季で野鳥を分けているため、それぞれ季節の扉に風景の中で録音している私の写真が必要だということになりました。今年の春に発行するには、去年の秋では間に合いませんので、2年前の秋から取材がはじまっています。編集者のS水さんのこだわりです。そのため、始めた時は、S原さんはまだ大学院生で学業の合間をぬって上京して取材してくれました。

若いとは言えプロカメラマンのS原さんとの仕事は、とても面白く興味深いものでした。鳥を研究し海外での留学経験もありますので、言葉は少ないものの内容が濃い話ばかり。また、鳥の習性を理解し、それを写真に捕らえようという姿勢を強く感じました。

たとえば今回、彼がこだわったのはヨタカです。夜行性の鳥だから夜のヨタカを撮りたいというのです。ネットで、画像検索すればヨタカの写真は山ほどでてきますが、昼間の写真です。図鑑に載っているヨタカの写真もほとんどが明るい光のなかで撮影されています。そのため、ヨタカは目をつぶっているか、眠そうな目をしています。こうした写真の多くは、渡り途中のヨタカでしょう。昼間休んでいるか、寝ている写真なのです。

もちろん、夜のヨタカは目を開けています。暗闇のなかですから瞳孔が開き、光の加減では赤く見えます。S原さんは、こうしたヨタカを撮りたいというのです。

ところが、私が毎年ヨタカの声を聞きに行っているダム湖への道は、土砂崩れで通行止めになったままとの情報。そのため、日光の鳥仲間のA部さんに助けを求めました。A部さんは、栃木県内のヨタカポイントを古い報告書から探し出しては出かけて、再発見をするという地道な調査をしています。

そのA部さんの案内で、栃木県北部のダムへ行きました。ダムサイトで日没を待ちます。夕暮れ時のダムサイトは静かです。サルが1頭、私たちを興味深げに見ながら歩いて行きます。遠くでアカハラがさえずり、それが止むと夜の鳥の世界になりました。ヨタカは、日没とともに鳴き始めました。ただ、谷間で鳴いていてなかなか近くにやって来てくれません。そのうちに、暗くなるし寒くなってきて、そろそろ帰ろうかと諦めかけたところで、広い駐車場の草地に1羽がおりているのを見つけました。

暗闇のなかヨタカに、S原さんがまるで獲物に近づくネコ科の動物のように少しずつ近づいては撮影して行きます。暗い中なので、ピント合わせにとても苦労しているようです。大きな音がする連射はしていません。1枚1枚ていねいに撮っています。あとで、撮れた写真を見せてもらうと、ヨタカの目が大きく写っているのに驚きました。昼間の顔とは、まったく違うヨタカの素顔を捕らえることができました。この目の大きな夜のヨタカの写真は『鳴き声から調べる野鳥図鑑』に載っています。

私は、今まで何人かのプロの野鳥カメラマンと仕事をしてきました。プロに共通するのは、S原さん同様に野鳥や自然についての知識が豊富なことです。なかには、論文にすべきだと思うくらいの知見を持っている人もいます。目的の鳥の習性を知るために長い間、観察してタイミングを計って撮影に挑むという時間と手間のかかる作業をしている人もいます。当然のことながら、それぞれの鳥の習性を知ればその鳥の生き生きとした瞬間を撮らえられることになります。生きものを対象にするカメラマンには、科学的な知識がいかに必要かということがわかりました。アマチュアであっても、野鳥の知識を持てば人とは違った作品をものにできるのではないでしょうか。

S原さんは、次は木の枝にとまったヨタカのバックに月を入れて撮りたいとの希望。そのためにはどうしたら良いか、ヨタカの習性をかんがみ撮影場所から方法を議論しました。