≪野鳥観察情報≫
   バードウォッチングのミカタ
 ======== by 松田 道生さん

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  第75回 シマエナガ・ブームに思う
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今、シマエナガがブームです。たとえば出版物を見れば、ここ2、3年の間に写真集が4冊、表紙にシマエナガが写っている写真を使っているのを含めると10冊以上あるかもしれません。出版業界が不況のなか、鳥関係の本が世の中に出ていくことは同慶の至り、喜ばしいことです。また、北海道のバードウォッチング・ツアーの中には、シマエナガに会える、撮影できるというのが売りになっているものが出てきました。今まで、日本の鳥類の亜種がこんなに注目を浴びたことがあったでしょうか。

このシマエナガ・ブームに乗ろうと、可愛い鳥、きれいな鳥といったコンセプトで企画された出版物も発行されています。また、出版物ばかりではなく、可愛さが強調されたいろいろな商品が目に付きます。世の中には、野鳥のキュート・レスポンスの刺激に満ちあふれたアイテムが増殖している感があります。

ところで、私はこのシマエナガ・ブームを歓迎していないのです。たしかに野鳥の魅力である可愛さを前面に出して、ファンを増やす、営業を行うという手はあると思います。また、可愛い小鳥の写真を撮って楽しむのも反対はしません。いいオヤジの野鳥カメラマンが、可愛いシマエナガの写真が撮れたと言って目を細めるのは、けして悪いことではないと思っています。

ただ、野鳥=野生生物を可愛いという側面だけを見る先には、生き物をペットとして見る傾向に傾いていくのではないかと懸念してしまいます。たとえば、かつて多摩川にアゴヒゲアザラシが出現したときに「タマちゃん!」と手を振る子どもたちが報道されました。中には、餌を与えようとする人も出てきたりして騒動となりました。このときのアゴヒゲアザラシを見る目は、野生生物ではなくペットとしての生き物になっていたと思います。それ以降も、幾多の動物アイドルが出現しましたが、彼らが自然の中で生きていくようすを伝えるよりも可愛さのほうが強調され、個人の所有にしたい、ペットにしたいという欲求を持ってしまう流れで紹介されてきました。ペンギンやカワウソの仲間がブームになると、どうしたら飼えるのかとネットで話題になることからも、その傾向は強いと思います。

私は、オオハクチョウよりマガンのほうが魅力的な鳥類と感じます。もちろん一般的には白くて優雅で美しいオオハクチョウのほうが人気です。鳥インフルエンザが問題にならない頃は白鳥類がくれば、すぐに餌付けが行われ、場所によっては観光資源となり地域起こしに活用されてきました。マガンは、茶色で地味な色をしています。そして、人の与える餌に付くことは希です。最近では、だいぶ近くに来るようになりましたが、警戒心の強さは心憎いほどです。それにも関わらず、私がマガンに魅力を感じるのは、野生を感じさせるからです。人が与える餌を食べ人にすり寄るような不純な生き方をしない気高さを魅力と感じるからだと思います。同じくバードウォッチャーの多くがワシやタカの仲間が好きなのは、人とは一線を画すその生き方、野生の魅力があるからだと思います。

ときおり、野鳥に珍鳥度としてマークや星印でランク付けが行われます。同じように、野生度という基準で野鳥を見た場合、マガンは星5つとするならばオオハクチョウは1つとなる違いが、バードウォッチャーの感性にはあるはずなのです。人にすり寄らない野生生物を「遠くにありて思う」、それだけに恋い焦がれる心情が野鳥との出会いをより素晴らしいものにしてくれるのが、バードウォッチングの楽しみのひとつだと思っています。

実は、このような主張を行うのには多少のためらいがあります。ひとつに野鳥の可愛さからファンを増やし、バードウォッチングの扉を開いてもらい、自然に関心を持ってもらうことはけして悪いことではありません。たとえば、私と同年代のH輪さんは、学生時代には干潟の保護団体の代表を務め、日本野鳥の会とWWFJの職員を経て今も活動を続けています。彼のバードウォッチングのきっかけは、ベニマシコを望遠鏡で見たときの可愛さだと語ってくれたことがあります。1羽のベニマシコが、日本の野鳥の保護にどれだけ役だったのか考えると、あながち可愛さを前面に出す広報も悪くないと思えてくるからです。

ということで、シマエナガの可愛さで釣っても良いけど、ただ可愛いきれいに終始して野鳥をペット視するようなことにならないようにしなくてはなりません。そのためには、自然のなかでしっかりした動物観を学ぶ機会を設け、科学的な根拠に基づいた自然観を持ってもらうように誘導していくべきだと思っています。少なくとも、業界のオピニオンリーダ−やリーダー格の立場の人間は、このあたりのことを理解して活動して欲しいのです。

せっかくのブームを良い方向に持って行く努力をするときだと思います。