≪スタッフ・有志の連載≫
 <第59回> 風の音にぞ…
 ============ by 漂鳥

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  第59回 ホトトギス鳴く森で
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(2011年6月初旬、地元の森でホトトギスを撮影しました。今回は、その時期に更新したブログに加筆したものを掲載させていただきますこと、ご了解願います)

光眩しい初夏です。野にも山にも薫風が吹き抜け、晴れた日にはチョウやトンボが飛び交い、4月に遠く東南アジア方面からはるばるやって来た渡り鳥たちは、繁殖に備えて雌を呼ぶために懸命に囀ります。

そんな賑やかさが一段落した森に行ってみました。ついこの間まで多くのカメラマンを引き寄せていたフクロウも、今はいないらしい。らしいというのは、例によって人があまりにも多く集まる所が苦手なので、結局一度も足を運ばなかったからなのですが。
いやビックリしました。森の通路のすぐ横にある柳の枯れ木の大きなウロに営巣したというのですが、その枯れ木が普段人が行き交う通路から手を伸ばせば届きそうな所にあり、携帯でも十分撮れそうな距離なのです。
アオバズクなどもそうですが、敢えて人の通る傍に営巣することで、天敵から身を守ろうとしたのでしょうか。実際私の知り合いは、巣の近くで大きな(2mあったそうな)アオダイショウを捕まえて通りの向こうまで運んだそうです。
(鳥の天敵といえばヘビやカラスが真っ先に浮かびますが、2017年には、なんとアライグマがフクロウの雛を次々と襲ったとか。このアライグマもまた、森の倒木のウロの中で子育てしたのだそうです。くわばらくわばら!)

で、ともかくも3羽だか4羽だかの雛はなんとか無事に巣立ったようです。ただ、多くのカメラマンによる森の下草の踏み跡は凄まじかったですけどね。

そんな喧噪も今は過ぎ去った静かな森に踏み入って、森の中の沼地をカワセミが飛ぶのを見ていたら、すぐ後ろで「トッキョキョカキョク」の声が!
ああ、ホトトギスかと、特に驚くこともなく森によく響くその声を聞いていました。というのも、ホトトギスは毎年のようにこの季節この森に立ち寄るからです。しかしながら立ち寄るとはいっても、その姿をきちんと見たことはこれまで一度もなく、同じ仲間のカッコウなら樹木の高みで囀る姿を見せるてくれるのに対し、この鳥は木々の中を飛び回るのと、比較的警戒心も強いので目にすることは難しいものと経験的に思い込んでいました。

まあそれでも一応はと思い、声のする方へ行ってみると…。
この森のメインストリートがあり、その通りに出たら、ん?声はすぐそこです!
木立ちの暗がりに目を凝らすと、

おお、いたぁ〜〜!!

暗いけど、なんと全身見えてます。しかもけっこう近い!
その後、横枝にもとまってくれました。

ホトトギスは以前に高原で証拠写真程度なら撮ったことはあるのですが、きちんと写せたのはこの時が初めてでした。

カッコウの仲間をトケン(杜鵑)類と呼びます。そしてこの杜鵑こそはホトトギスとも読むわけです。日本で主に見られる杜鵑類は、カッコウ、ツツドリ、ホトトギス、ジュウイチなどがいます。どうでしょうね、よく見られる順もまたカッコウ→ツツドリ→ホトトギス→ジュウイチということになるでしょうか。その中でこのホトトギスは一番体格は小さいようです。キジバトより小さくて、ムクドリよりは少し大きいといったところです。

秋に咲く花にもホトトギスはあり、やはり杜鵑の字を当てます。鳥の方では他に様々な漢字があります。知られているところでは不如帰、子規、時鳥などがあり、他に蜀魂、沓手鳥、田鵑、霍公鳥なんていうのもあるそうです。

   山々は萌黄浅黄やほととぎす (子規)
   漲れる四方の田水や時鳥   (橙黄子)
   谺して山ほととぎすほしいま々(久女)

歳時記(新歳時記・高濱虚子 編)を開いてホトトギス“時鳥”を見てみたら、なんと46首も載っています。最も謳われそうな「鶯」でも42首でしたから、いかにこの鳥が古来から初夏を告げる鳥として親しまれてきたかが伺えます。

トケン類は、自ら子育てをすることなく、他の鳥の巣に卵を産み落とす“托卵”を行うことが知られていますね。このホトトギスは主にウグイスに托卵しますから、ウグイスの棲息する平地から山地まで幅広くいます。カッコウはより開けた草地などを好み、平地ではオオヨシキリが托卵先になることが多いようです。これに対し、ツツドリは主にムシクイ類が托卵先になるので、低山から亜高山までの山地で繁殖します。ジュウイチの托卵先は、オオルリ・コルリ・コマドリ・ルリビタキのような山地で繁殖する小鳥たちですから、けっこうな高さの山が繁殖地になります。
自分で子育てをしないなんて、なんてお気楽な鳥たちだろうとの見方もあるでしょうが、実際托卵相手に見つからないように卵を産み付けることは、きっと想像以上に難しい作業なのではないかと思われます。托卵される側も学習し、そうされないような工夫をこらしているという話も聞きます。

ホトトギスの鳴き声の“聞きなし”については諸説あり、よく知られているものでは「てっぺんかけたか」と「特許許可局」がありますが、他に「ほととぎす」「本尊掛けたか」というのもあるようです。さらに「田をば作らばはやつくれ、時すぎぬればみのらず」なんていう、我々日本人がほんのつい最近まで農耕民族だったことを伺わせるような聞きなしまであります。
個人的にはやはり「トッキョキョカキョク」ですね。
さらに、鶯は玉を転ずるが如く鳴き、時鳥は綿を裂くが如く鳴く、と古人は言ったそうです。う〜む、古人は情感豊かですなあ。かつては身近にたっぷりと自然があったから、鳥の声なども否応なく耳に入り、それもまた季節感を表す大切な要素だったのでしょうね。便利な機械や車やコンビニもなかった時代、しかし人々の感受性は、どうでしょう、現代の10倍ほども鋭かったのではないでしょうか。(言い過ぎ?)

さて、鳴きながら森を飛び回るホトトギス。先回りして反対側の通路で待っていたら、案の定向こうからやってきて、こともあろうに私の真上の枝にとまって大声で鳴くのです。せっかくだから撮らせてもらいました。ただ大きな(大きく写した)ホトトギスを見て「なんだ、らしくないじゃないか」と言わないでくださいね。自分からどんどん近づくことはしませんが、向こうから来ちゃったものはしょうがないんで。

さて、今度は近くの田圃に出てみましょう。ここでも多くの鳥が繁殖にいそしんでいます。
広い田圃に点々とある葦原では、ヨシゴイが飛びコヨシキリが鳴きます。
ヨシゴイ コヨシキリ

おや、向こうの田圃にはタマシギのペアが。小さなシギはウズラシギか。
タマシギ ウズラシギ


鳥たちが生き生きと活動する初夏。彼らが命を繋ぎ続けることができるこうした環境が、ずっと残ってくれると良いのですが…。

(了)