≪野鳥観察情報≫
   バードウォッチングのミカタ
 ======== by 松田 道生さん

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  第79回 緊張感の持ち方
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バードウォッチングをしているときの緊張感について書いてみます。

バードウォッチングの入門書には、書かれていないことだと思いますので、かなり緊張して書きます。

私がまだ初心者だった頃、前回登場してもらったF野さんとつい数ヶ月前に亡くなってしまったA田さん、そして私の3人で埼玉県新座市にある平林寺に行ったことがあります。1968年3月23日のことで、3人とも高校生です。その1週間前に日本野鳥の会東京支部の明治神宮探鳥会があって、その後不忍池に行きカモ類を見ています。その流れのなかで意気投合し、次の日曜日に平林寺に行こうと言うことになったのだと思います。

3人とも明治神宮や新浜などで、支部の幹事から厳しい指導を受けていましたので、もういっぱしのバードウォッチャー気取りです。今思えば、生意気盛りの初心者3人です。平林寺では、ヒガラやキクイタダキなど30種近く見つけ、最後にアオゲラを見て感動しています。このとき印象的だったのは、3人が息を殺し耳をそばだて目を皿のようにして、鳥を探していたときの緊張感です。

私は、2人より先に鳥を見つけようと必死だったことになります。草むらから「チッ」という声が一声でも聞こえ来たら「アオジだ!」と、真っ先に言ってやろうと意気込んでいました。他の2人も同じだったと思います。やけに自分の足音が、大きく聞こえたものです。

遠くから見たら、高校生3人が忍び足で歩いているのですから、さぞ怪しく見えたことでしょう。

おそらく3人ともバードウォッチングのキャリアは3年くらい。学校に通っていましたら、それほどバードウォッチングをする機会がなかったと思います。それでも、これだけの緊張感の持ち方を習得していたことになります。バードウォッチングには、こうした緊張感が必要なことだと感じたときでした。ただ、緊張し続けてさぞ疲れたことだと思います。

話は変わって、ごく最近のことです。

私のフィールドの六義園では、最近常連さんが増えて絶えず5,6人のバードウォッチャーや野鳥カメラマンの方に会います。お目当ては、このシーズンに六義園を通過して行く夏鳥たちの姿です。運がよければサンコウチョウやオオルリ、少なくともコサメビタキ、キビタキ、センダイムシクイには会えます。ポイントは、ミズキの実が成っているところなのです。六義園にミズキはあちこちにありますが、順路際で観察できる木は1本くらいしかありません。その前で、待つのがこのシーズンの六義園流の楽しみ方です。

私も含めて3人が並んで、鳥が来るのを待っていました。1人はまだ2、3年のバードウォッチング歴、もう1人は10年は超えたでしょうか。いずれも、私と同じ年齢層です。鳥が来ると3人同時に見つけて「シジュウカラですね」「その後ろは、コゲラです」と皆で確認しあいながら、お目当ての夏鳥を待つのです。このように、ほぼ同時に鳥を見つけて確認することができるほど、バードウォッチングの能力に違いがありません。

そして、1枚の枯れ葉が視野の左隅を落ちて行きました。つい動くものには目がいってしまいますので、私がそちらを向くと、他の2人も同時に枯れ葉のほうに目をやりました。「なんだ枯れ葉か」と3人で苦笑。「でも、枯れ葉に目が行かなければ鳥を見つけられないよね」と私。こうした動きに対して敏感になり、動いたものに目をやることができる緊張感こそ、鳥を見つけられるコツであると改めて思いました。

おそらく、遠くから見たら年寄り3人がぼうっと立っているように見えたかもしれません。しかし、私はこのそこはかとない緊張感ただよう空間が、とても心地よく感じました。年寄りですから、ガツガツとした緊張感ではない緊張感を保っていたことになります。

ベテランの緊張感の持ち方というのは、あるところでは力を抜いていますが、力を入れるとことではしっかりと見ていることになります。話をしていても、目は周辺の鳥の動きを追っています。そして鳴き声が聞こえれば、ちゃんと聞いて見つけるのですから凄いと思います。これは、緊張感のなせる技ではないでしょうか。ですから、緊張感の必要性を説きたいのです。しかし、その持ち方から抜き方はいつの間にか身につくもので教えられるものではないのです。

私は、この緊張感の持ち方を誰から教わったという記憶はありません。また、本に書いてあるのを読んだこともないのです。私は、バードウォッチング3年程度の高校生のときに基本は身についていたのだと思います。また、六義園の常連さんを見ると3年くらいで身につけている人はいますから、3年もバードウォッチングを続けていれば、自然に身につくことなのかもしれません。

しかし、いつまでたっても鳥を見つけられない人もいます。人に見つけてもらわないとわからないという方もいます。こうした方の行動を見ていると「緊張感がないなあ」と思います。たとえば、探鳥会でおしゃべりに興じて鳥を見つけられない方。鳥が出てくるのを待っているカメラマンでしゃべり続けて、シャッターチャンスを逃してしまう人。こうした人には、ぜひ緊張感の持ちようを身につけて欲しいと思います。

自分が自然のなかでどれだけ緊張感を持って野鳥に接しているか、一度意識してみたらいかがでしょうか。