≪野鳥観察情報≫
   トリ調べの方法
 ======== by 松田 道生さん


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  第10回 流れを知ることが未来に続く
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どんな論文でもかまいません。多少、長めの論文に目を通してみてください。

論文のはじめに、その論文のテーマに関連した研究の概略が書かれています。「はじめに」とか「まえがき」と項目が書かれている場合もあります。これは、いわば研究史です。今まで、どのような研究結果が誰により発表されているかという記録です。概略は文章で、参考文献は(松田・2006)といったように書かれています。そして、最後に掲載されている引用文献を見れば、その出典がわかるようになっているはずです。

この部分を読むと、たとえば「東京のハシブトガラスの繁殖」についての論文であれば、ハシブトガラスの研究の概略、あるいは歴史、今までの研究成果がわかるのです。あるいは、都市環境における鳥類についても同様のことが書かれていることもあるでしょう。たとえば1種類の鳥やテーマについてこだわってみようと思った場合、新しい論文を入手してこの部分を読めば、たちまち過去の歴史から最先端の研究までたどり着けることになります。そして、そこから出発をすることができるのですから、こんな楽なことはありません(実際は、そうもいきませんが・・・)。

それだけに執筆者がかなり苦労をする部分でもあります。東京のハシブトガラスについて書こうと思えば、ハシブトガラスについての他の論文や報告書について、すべて目を通さなくてはなりません。じっさい、日本鳥学会誌、山階鳥類学雑誌(元・山階鳥類研究所報告)、Strixなどの論文集を探すことは、さほどたいへんではありません。しかし、報告書のなかには行政が行ったものもあり、入手が難しいものがあります。また、地方の大学や高校の紀要や卒業論文などは、つてを頼り本人とコンタクトをとらないと入手ができません。このとき、たえず誰かが他でもっと立派な研究をやっているのではないかという不安がつきまといます。

また、都市の鳥ということでの位置づけを明確にするために、都市鳥の研究もようすも理解しなくてならないとなると、読まなくてはならない論文がぐーっと増えます。さらに不安がひろがります。ハシブトガラスの場合、ヨーロッパとアメリカには分布していないので、英文の学会誌を読む必要はあまりありません。しかし、広く分布するハシボソガラスであったり、カラス類でほかに似たような論文がないかと思えば、たいへんな作業となります。「7.1種類について極める」で書いたように”わかっていることと、わかっていないことがわかっていない”と書けない部分なのです。

こう書くとただただ苦労のみと思われるかもしれませんが、自分の知識が深まり広がっていく快感を感じる時でもあります。また、こうして情報を収集することから研究者同士のネットワークができていくことにもなります。これが、鳥を科学的にアプローチした時の醍醐味でもあり、楽しみであるのです。

こうしてテーマの全体を把握し、さらに過去の研究の流れを見て、自分の研究の成果を位置づけて、はじめて成立するのです。「6.極めた本を読む」で紹介した本を書かれた多くの研究者は、バックグラウンドにこうして書かれた論文を先に発表していることが多くあります。だからこそ、極めたことによるインパクトがあり読者に感動を与えることができるのでしょう。

しかし、研究者のなかには「記録が段ボールいっぱいある」と言いながら、論文が発表されない人がときおりいます。これは、調べれば調べるほど、目を通さなくてはならない論文に行き当たり、まとめきれないことが壁となってしまっているからです。

論文の「はじめに」と書かれた部分は半ページほどの文章量で書かれていることが多いのですが、この部分を書くことで、あるは読むことで、その論文の位置づけが明確になります。これはたいへん重要なことなのです。というのは、今までの誰がどのような研究をしてきたのか、どのような報告がなされているのかという流れが書かれています。そのことから自ずから、その論文の位置づけが明確になるのです。このように流れを把握することで、自分のいる場所がわかり、今何をなすべきか明確になるのです。

これは、別に研究者に限ったことではありません。思いつきも大切ですが、趣味のバードウォッチングといえども、流れを把握して自分がどこにいるか理解し、今やるべきことが明確にしている人こそ、次の時代を担っていくことができるのではないでしょうか。