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| ────────────────── 第17回 バードウォッチング不適合者 ────────────────── 『登山不適合者』(岩崎元郎・NHK出版/生活人新書)という本があります。筆者の岩崎さんは、中高年の山登りの一大ブームのきっかけを作られた方でもあり、現在多くの登山者がステッキを持って歩くようになったのは、彼の影響だと言われているほどです。 この本には、山登りをする資格のない人が山に入り遭難したり、けがをした例が報告されています。おしゃべりに夢中になって標識を見落とし遭難したという考えられない例から、地図の読み間違い、気象の判断の過ちからの遭難など、私たちバードウォッチャーも見舞われる可能性のある例が多数紹介されています。 山登りをする人が増えれば、事故も多くなり、マナーの不備から他の登山者や住民との軋轢も問題になっています。ブームのきかっけを作った岩崎さんとしては、問題の分析をして警鐘を鳴らさざるを得ないといったところでの出版なのでしょう。それだけに、たいへん冷静に現状を分析しつつ問題点を明確に示しているあたりは深い経験から、わかりやすい構成と文章は指導歴の長い岩崎さんならではの著作となっています。 バードウォッチャーがバードウォッチング中にお亡くなりになった例としては、調査中の海難事故と台風で増水した河川に巻き込まれての水死という例が、私の記憶にあります。バードウォッチャーが山で遭難した例を私は知りませんが、登山者と同じように山に入ったり自然のなかに入るバードウォッチャーなのですから、同じような危険と隣り合わせであることは間違いありません。 山に登りたい、頂上を極めたいという登山者と、野鳥を見たいというバードウォッチャーの欲望は同じだと思います。それだけに、無理なスケジュールをこなそうとしたり天候の悪化にかかわらず行程を変更せず、登山者と同じ危険に見舞われる可能性があります。 以前、日光の山を登りながら秋の鳥の渡りを見ようと計画したことがあります。その日の前日、低気圧が通過して朝起きると晴れているものの強風が吹き荒れていました。13人集まった仲間の1人に気象予報士の方がいて「この風は今日一日中、吹き荒れる」と予想され山歩きを断念したことがあります。彼の予報は当たり、夕方になっても風が吹き止むことはなく、一同大いに彼に感謝いたしました。強風は思いの他たいへん危険で、私たちが行こうとしていたところは崖にそった道もあり、滑落の危険もあったのですから適切な判断をしたことになります。 低気圧は確実に遠ざかっていますし、空は晴れています。もし彼がいなければ、せっかくの月1回のイベント、東京からやってきていることもあって強行してしまったと思います。鳥を見たいという気持ちが、気象の変化を楽観的に見てしまい事故を起こしていたかもしれません。「野鳥を見たい」という感情と「風はやまない」という気象予報士の科学的な判断のせめぎ合いのなかで客観的な判断を採択したための危険回避でした。 これは、たまたまうまくいった例ですが、私たちが自然のなかに入るときに天候に関して気象図も見ないで「今日は、晴れるだろう」、「晴れなきゃ困る」と言いながらスケジュールをこなしたことは誰にでもあるのではないでしょうか。鳥を見たいという気持ちが、状況判断を誤らせる可能性が大いにあるのです。自然のなかでの天候の変化は命に関わることに関わらず、”気持ち”を優先していることが多いのではないでしょうか。 ここでは天候の例をあげましたが、旅程の企画の無理、体調不良にかかわらずスケジュールを強行するなど登山者との共通項はまだあります。バードウォッチングに限って言えば、観察機材を優先するあまり生存に関わる機材(雨具、食料、水)などを、ないがしろしているようなことも事故につながることでしょう。そして、山の知識がなくて事故に会う人がいるように、野鳥の知識がなくてバードウォッチングしようとして野鳥に影響を与えたり、軋轢を生じていることは言及しておきたいことがらです。 自然のなかに入り、自然を楽しむというのは登山者もバードウォッチングも同じです。『登山不適合者』は、バードウォッチャーにも読んで欲しい本です。 |