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| ───────────────────────────────── 第23回 命がけの衣替え ───────────────────────────────── 〈野鳥の3大試練〉 野鳥の3大試練(命を落とす可能性のある大変な行動や作業を勝手に名付けました)といえば、"繁殖""渡り""換羽"ではないでしょうか。「試練などと大げさな..とお思いになるかもしれませんが、今回はその中の"換羽"について注目してみましょう。 〈飛ぶための条件〉 大空を自由に飛ぶことができる鳥への憧れは、誰しも一度は思い描いたことがあるのではないでしょうか。風を自由に操るように飛翔する鳥たちは優雅に映り、悩みなど全くないかのような錯覚に陥ります。 しかし自在に大空を飛翔するには、日々の羽の手入れが欠かせません。人間なら着ている服を脱ぎ、洗濯してまた着直しますが、羽が体の一部である鳥の場合にはそうはいきません。毎日水浴び(種によっては砂浴びも)し、尾羽付根にある尾脂腺からでる分泌物(種によっては粉綿羽のパウダー)を羽に擦り込み、丁寧に羽のメンテナンスを行わなくてはなりません。羽は飛翔に重要な役割を果たすだけでなく、水をはじいて体温を保つ重要な役割も担っています。雨に濡れて体温が低下すれば、それはイコール"死"を意味することになります。 〈命がけの衣替え〉 毎日の羽の手入れは行っていても、長く生きるにはそれだけでは足りません。人間の服が傷むように、鳥の羽も次第に傷んできます。そこで、どんな鳥でも換羽(かんう)という衣替えを行うことになります。換羽には全身の換羽と部分的な換羽がありますが、ほとんどの種が、年に1度は全身の羽毛を取り替えることになります。 おそらく皆さんは、換羽といっても簡単に済むものと考えるのではないでしょうか。しかし換羽は、人間の髪の毛や爪が伸びるようなものではありません。古い羽を一旦落とし、新たな羽を体内から生やさなければなりません。鳥の羽は枚数が多く、ロジャーピーターソン著の『The Birds』によると、「体の小さなノドアカハチドリの羽毛は940枚、イエスズメは平均3,500枚、オオハクチョウは25,216枚であった」とされており、「単位面積あたりの枚数では、ノドアカハチドリの方がオオハクチョウより多かったと」の記述があります。いずれにしても、これだけの数の羽を取り替えるのですから、かなりのエネルギーが消耗されるということが想像できるのではないでしょうか。 換羽のパターンは種によって異なりますが、飛ぶ能力を維持しながら少しずつ行うパターンと、一時期は飛べなくなっても、風切り羽を一気に換羽するパターンがあります。前者は換羽中も飛ぶことができるので日常生活に大きな支障はないものの、換羽が終了するまでに長い時間を要します。後者は、体重の割に翼面積の小さなカモやアビの仲間、飛ぶよりも歩くことの多いクイナの仲間などでみられ、一時期は飛べなくなっても、短時間で換羽を終わらせられるというメリットがあります。前者を選ぶか後者を選ぶかは、その種の体型や行動パターンなどによって異なるようですね。とくに後者の場合には、換羽の最中に天敵に襲われて命を落とす個体も少なくないのではないでしょうか。 大型の猛禽類などでは、風切り羽の換羽が一年で終わらない種もあります。また換羽には大きなエネルギーを使いますから、その個体の栄養状態によって差もでてくるようです。さらに、野生の個体と条件のよい飼育下にある個体では換羽のスピードが異なるともいわれており、本当に換羽は大変な作業なんだな…と思わずにいられません。 換羽の時期ですが、小鳥類の成鳥は、繁殖終了直後に全身の換羽を行います。春から夏の繁殖期には2度繁殖を行う種が多いですから、ただでさえ子育てで体力を消耗しているのに、その直後に全身の換羽を行わなければならないとは、鳥が生きるためのスケジュールは超過密といえますね。さらに渡りを行う種については、〔春の繁殖地への渡り〕→〔繁殖〕→〔換羽〕→〔秋の越冬地への渡り〕と、大きな行事が次々にやってきますから、考えただけでも目眩がしそうですね。 換羽を専門に扱った和書は記憶にありませんが、今での購入できる洋書がありますので紹介します。換羽に関する、より詳しい情報を得ることができます。(偉そうに書いてますが、私は語学力に乏しく、断片的にしか理解できません) ◆『Moult in Birds』(HB Ginn and DS Melville) BTO GUIDE 19 ※Moult(=Molt)…換羽や脱皮の意味 〈カモ類のお召し替え〉 皆さんがお住まいの地域にも、すでにカモ類が飛来していることでしょう。しかしこの時期のカモは、メスのような地味な色合いの個体ばかりかもしれません。カモ類のオスは派手で美しい色彩の種も多いですが、繁殖後には非繁殖羽(一般には冬羽)に変わります。こうした状況はエクリプス(eclipse)と呼ばれ、秋の深まりと共に、オスは再び美しい繁殖羽を身につけていきます。 冬鳥の代表として身近な環境でも観察されるカモ類ですが、ぜひこの時期の識別にも挑戦してみてください。オナガガモやマガモのオスなどは、繁殖羽であれば、誰が見ても簡単に識別できます。しかし、地味な色合いに変わると識別は難しくなり、改めてその体型や個々の部位の特徴を検証する作業が行われることでしょう。 季節の移ろいと共に変化していく野鳥の姿を観察していくのも、バードウォッチングの楽しみのひとつだと思います。 Hobby's World 吉成 才丈 |