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────────────────────── 第15回 トモラウシ山遭難事故に思う ────────────────────── 今年7月、北海道大雪山系で10人死亡したトモラウシ山などの遭難事故は、いろいろな意味で考えさせられました。トモラウシ山は、カミさんが登ったことのある山であり、事故を起こした旅行会社のひとつがバードウォッチングツアーも催すAトラベルだったことも気になりました。 事故の第一報をテレビで知るとすぐに地元新聞のサイトへ行き、まだ東京では報道されていない旅行会社名を調べたところ、知った会社名が出てきたの愕然としました。その後も、事故の原因についていろいろ言及されているコメントを拾い集めて、私なりに考えてみました。 私には、登山と山歩きの境界がわかりませんが、トモラウシは登山の山だと思います。登山はチームによるスポーツ。野球やサッカーと同じで、キャプテンがいてその統率のもとに勝利、登山の場合は頂上を征服するものだと思っています。いわば、山という自然を相手にチームワークを持って戦う格闘技だと思います。それも、けっこう命がけのスポーツです。ですから、大学の山岳部や山男のグループの結束は堅く、何年たっても交流が続くものですし、事故で仲間を亡くしていれば慰霊登山を毎年するほどの仲となります。 ですから、そもそも登山をツアーとして実施するのは、そぐわないものだと思います。 また、山岳救助ボランティアの知人が「なぜガイドが死んだ人の服を脱がせ、生き残った人に着せなかったのか」と言っていたと聞いて、なるほどと思いました。自然のなかでのサバイバルは、かよう厳しいものですし、キャプテンならばできることを客とガイドという関係ではできず被害を拡げたことになります。 もし、ツアー参加者がガイド3人もいるので、いざとなれば荷物を持ってもらえる、担いでもらえるかもしれないという甘えがあったのならば問題です。ガイドはリーダーではなく、ポーターの位置づけであったのならば、緊張感のない登山を行っていたことになります。登山は、一人ひとりの力を集結して協力し登頂を達成するものですが、ツアーということで、ガイドだよりのムードが蔓延していたことが懸念されます。 登山ツアーのガイドとは比べようもありませんが私自身、自然観察会のガイド役を一年に何度もこなしています。日帰りが多いのですが、ときには数日にわたるツアーのガイドを行うことがあります。 個人でバードウォッチングに行くことに比べ、ガイド役がいるツアーは安心して旅行ができる良さがあります。自前の旅だと、食事の心配から交通、宿の手配をして本当に予約が通っているかなど気にしながらバードウォッチングをしなくてはなりません。旅の要素の部分は心配ないのですから、その分バードウォッチングを楽しむことができます。日帰りでもガイドがいる限り、道に迷うことはまずありません。 それにもまして、土地勘のないところで鳥の居そうなところを探してウロウロするのは時間の無駄ですし、目的の鳥に会えなかったら元も子もありません。それに引き替え、確実に鳥の居るところへ連れて行ってくれるのですから、ガイドがいれば楽です。さらに、ガイドが鳥を見つけてくれます。息を殺し耳を澄まし、鵜の目鷹の目で野鳥を探す必要はありません。それだけに、おしゃべりしていてもかまいません。参加者の多くは、わいわいがやがや盛り上がって楽しそうです。 ですから、ガイド役を請け負うと、下見から最新の情報の収集まで準備を怠ることはできません。さらに、普段以上に鳥を探す努力をしなくてはならず、疲れます。 ただガイドをしていて感じることは、参加者に野鳥を見つける努力や自然のなかにいるという緊張感がないことが気になることがあります。自己紹介で何回もバードウォッチングツアーに参加しているという方も何100種類見たと自慢していた人も、鳥を見つけることが下手なのです。普通、ベテランの鳥友と歩いていて鳥を見つけ「あそこにいる」と言えば「いたいた」ですむことが、「大きな四角い岩の右角の2時方向上5メートルにある枝の上」などと、教えなくてはなりません。「どこどこ」と言っているうちに鳥は飛び立ってしまうことがよくあります。 また、鳥が鳴いているのも目の前を飛んで行っても気がつかない人がいます。さらに、野鳥との距離の持ち方がわからないのか、ズカズカと近づき鳥を飛び立たせてしまい顰蹙をかう人もいます。バードウォッチングの基本の”き”を学んでいないのではないかと懸念させられます。初心者対象の自然観察会ならば、双眼鏡の使い方から鳥の見つけ方から入りますが、ベテランを自負する人たちを前に今更、話をするのも気が引けます。 これら参加者の多くは、ガイド役のいる自然観察会やツアーでしか鳥を見ていないのではないかと思いました。日頃、近くの公園に行き散歩がてらバードウォッチングをしたり暇を見つけて探鳥地へ一人で出かけ、自分で野鳥を見つけ野鳥と接する時の緊張感の保ち方の訓練をしているとは思えないのです。いわば、自然観察会やツアー参加時だけのバードウォッチャーです。 野鳥の魅力は、奥深いものです。経験と知識が増えると、より発見も増え、その面白さにのめり込みます。少なくとも私は40年以上、バードウォッチングをしていますが飽きることはありません。フィールドで出れば、いつも新しい発見に遭遇し新鮮な気持ちで野鳥を見ています。そのフィールド体験が希薄になってしまうガイドだよりの観察会やツアーでは、いつか野鳥に飽きてしまうのではないか心配です。 普通、バードウォッチングをしていて命に関わる危険に遭遇することは、まずありません。登山とバードウォッチングの緊張感の持ちようも比べものになりません。しかし、持っていなくてはならない緊張感は持つべきですし、持たせる自然観察会やツアーがより息の長いものになるのではないでしょうか。 |