≪野鳥観察情報≫
   バードウォッチングのミカタ
 ======== by 松田 道生さん

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  第28回 自慢できない弊害
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珍鳥ポイントに行ったときに「実は、他にも○○がいる」と教えてもらったことがあります。私だけにそっと情報を教えてくれたと思い、申し訳ないので結局、見に行きませんでした。後で知人に「あそこには○○もいたみたい。」と話したら同じ方から情報を聞いて知っていました。情報は、私だけに知らせてくれたわけではなかったのです。ちょっとがっかりしましたが、珍しい鳥を見つけたら見てもらいたい、自分が見つけたことを自慢したいという気持ちになることは理解できます。バードウォッチングの楽しみの何割かが”自慢をする”ということにあるのは否定しません。

ところが、自慢をして情報が漏れたとたん、あっという間にバードウォッチャーや野鳥カメラマンが押し寄せる昨今、自慢ができません。バードウォッチングの楽しみが、半減しているのが実情です。しかし、情報を公表できないということは、自慢できないという個人的な楽しみだけではなく、肝心の野鳥や自然を守ることもできなくなってしまうことに気がつきました。

たとえば、私の知人の裏山にサンコウチョウが来たことがあります。Webサイトも管理している方なので、情報をアップしそうになるのを私は止めました。彼としては、素晴らしい鳥が近所に来たので、この機会に郷土の自然の豊かさを多くの人に知ってもらいたいという純粋な気持ちがありました。しかし、私は「もしこの情報が漏れたら、朝起きて会社に行こうと家を出ると家の前に数十台のレンズの放列が並んでいるかもしれない」と言って思い留めてもらいました。

私のフィールドのひとつ栃木県日光市では、○○も□□も△△もいます。市町村合併で日光市は栃木県のおよそ4分の1の広さになったので、種名をあげても場所の特定はできませんが、万が一を考えて匿鳥名とします。このように、私のフィールド自慢ができないのです。「○○、□□、△△もいる良い所なので、ぜひ皆さん見に来てください」と書きたいところなのです。昔ならば、そう書いても大してバードウォッチャーは来ることはありませんでした。なぜなら、活字になる頃にはもう鳥はいなくなっているからです。そのくらいの知識と常識を持った方が多かったのです。

しかし、インターネットの普及によりリアルタイムで情報が伝わってしまうのですから、出会える確率は高くなりました。そのうえ、バードウォッチャーと野鳥カメラマンの人口が増えたのですから、どんな騒ぎになるのか予想ができません。

そこで今困っているのは、自然を守るために自然の素晴らしさをアピールしたいのですが、できないことです。日光市は有名な観光地であるために観光収入により成り立っていると思っていましたが、じつは土木工事など公共事業のほうが大きな割合を占めている全国の地方の実情と変わりません。それだけに、開発話がよくあります。そのため、貴重な日光の自然を守るために、こんな貴重な鳥もいるのだとふだんから言っておく必要があるのです。ところが、それができないのです。

貴重な野鳥が生息していると知っていれば、開発の企画段階で多少の躊躇があるでしょう。企画が通って開発計画が公表されてから、野鳥の記録を公表して開発を止めるのは至難の業です。それを思えば、機会があるごとに野鳥の名前、地名、写真をばんばん公表しておき、保護のための伏線を張っておきたいのです。それが今、できません。

情報を公開してバードウォッチャーや野鳥カメラマンが集中する弊害と、開発により自然が破壊される危険とどちらが野鳥にとって”悪”なのか天秤にかけなくてはなりません。今そこにやって来る可能性のある人の群れのほうが、危険度が大きいと感じてしまうのは私だけでしょうか。