≪野鳥観察情報≫
   バードウォッチングのミカタ
 ======== by 松田 道生さん

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  第30回 野鳥図鑑も持っていない
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先日、とある野鳥観察施設に行きました。仕切っているオジさんがいて、少年バードウォッチャーに「ほら、コアオアシシギがいる」と教えていました。見ると、アオアシシギです。実はコアオアシシギは別の方向にいたので、少年が間違っておぼえてはいけないと「コアオアシシギは、こっちにいるよ」と教えてあげました。オジさんは、この一言で気分を害したようでそれから黙ってしまいました。そして、私の目の前でリュックから鳥の図鑑を出してドンと置きました。どうも、自分はちゃんと図鑑をみているというアピールのようです。しかし、この図鑑は少々難のある図鑑で、この人がアオアシシギとコアオアシシギの区別がつかなかった理由のひとつが図鑑にあるのではないかと思いました。

以前『双眼鏡を持っていないバードウォッチャー』と題した記事を当欄に寄稿しました。内容は、野鳥カメラマンの双眼鏡はチープなタイプが多い、なかには持っていない人もいる。双眼鏡で野鳥を見ていないので野鳥の素晴らしさを知らない、野鳥を見つけられない、さらには野鳥の姿をしっかり見ていないので写真の加工も不自然、野鳥を双眼鏡で見るのが基本だという内容でした。この双眼鏡と同じことが、図鑑にも言えるのではないかと思いました。

そういえば、図鑑を広げて実際の鳥と見比べているバードウォッチャー、あるいは図鑑を前に議論をしているバードウォッチャーを見ることは希です。まして、写真を撮って液晶画面に映った鳥を図鑑で調べている野鳥カメラマンは見たことはありません。

双眼鏡は、首からぶら下げているので目に付きます。しかし、図鑑は持っていてもリュックの中、あるいは家に置いてあるかもしれません。目に付きません。ひょっとすると、野鳥カメラマンやバードウォッチャーのなかには、そもそも図鑑を持っていない、あるいは持っていても1冊しか持っていない、それも簡便なものしか持っていない、また持っていても図鑑を読み込んでいないのではないかと思いました。

図鑑から野鳥の知識の多くを得ることができます。識別点はもとより、どんな環境にいてどこに渡るのかなど、基本的な情報は書かれています。図鑑の掲載されたイラストや写真を見て、解説文を読むと野鳥の素晴らしい世界を垣間見ることができるのです。それが、ないということは名前はもちろんのこと、いつどこで見られるかの知識もないわけです。それが、ネットに流れる情報をたよりに特定のポイントに人が集中する理由かもしれません。

野鳥を見てやろう、珍鳥を見つけたいと言うのならば、イラスト図鑑の高野図鑑(『フィールドガイド日本の野鳥』日本野鳥の会)を中心に写真図鑑の叶内図鑑(『山溪ハンディ図鑑・日本の野鳥』山と溪谷社)、真木図鑑(『日本の野鳥590』平凡社)、文一図鑑(『日本の鳥550 山野の鳥・水辺の鳥』文一総合出版社)のいずれかをそろえるというのが基本でしょう。これに、声ならば蒲谷図鑑(『野鳥大鑑鳴き声442』小学館)、ワシタカならばワシタカ図鑑(『図鑑日本のワシタカ類』文一総合出版社)など、さらに珍鳥ファンならばブラジル図鑑(『Birds of East Asia』Princeton Univ Pr.)や海外の図鑑をそろえるべきでしょう。

図鑑は、ハンディなもので数千円、大型図鑑でも1万円台です。ここにあげた図鑑の合計金額は、52,523円、すべてそろえたとしても中級の双眼鏡1台を買うのとそうかわりはないのです。図鑑は、カメラや双眼鏡に比べればはるかに安い買い物だと思います。それに、これらの図鑑は大型書店に行けば並んでいますし、通販で検索すればすぐに入手が可能です。けっして、手に入れにくいアイテムではありません。

では、図鑑をそろえて置けばそれで良いかというとそれだけではダメです。読み込まなくてはなりません。といって、ねじりはちまきをして、隅から隅まで読めということではありません。午後のひととき紅茶でも飲みながらパラパラめくる、あるいは寝酒のワインを飲みながら目を通すということで良いと思います。そして、こんな鳥がいるのか、ぜひ見てみたい、こんな所からやってくるのか凄いと、野鳥への思いを馳せる至福の時をすごしていただければ良いのだと思います。