≪野鳥観察情報≫
   バードウォッチングのミカタ
 ======== by 松田 道生さん

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  第32回 情報化時代に欠如してしまったマナー
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商売柄、たえず業界の状況を把握するようにつとめています。私を育ててくれた組織でもあり、職員でもあった公益財団法人日本野鳥の会の存在、そして役割についてはいつも自問自答を繰り返しています。

たとえば、かつてはバードウォッチング業界=日本野鳥の会という言えるほど、業界そのものでした。そのため、野鳥に関わる情報の多くも日本野鳥の会からの発信でした。その情報のひとつがバードウォッチングのマナーです。「やさしいきもち」は、野鳥とのつきあい方の頭の文字を並べたスローガンです。日本野鳥の会の出版物にはかならず掲載されています。さらに、野鳥撮影のマナーも機会があるたびに広報されています。

私は、在職中に野鳥カレンダーの制作に関わっていました。募集要項に「巣や雛の写真は使用しません」と、明確にうたっていました。同様に雑誌『野鳥』にも書かれていたのですから、日本野鳥の会へ巣や雛の写真を応募しても採用されないという広報は強力なものでした。

事実、当時のカレンダー写真の応募では、35mmフィルムのポジで段ボール箱1箱以上は応募があったのですが、まず巣や雛の写真はありません。少なくとも応募して来る100人以上のプロアマを問わず野鳥の写真を撮っている人たちは、巣や雛の写真を撮ることは悪いことというプロパガンダは効いていたことになります。当時の野鳥カメラマンと話すと、マナーと言うよりタブーに近い条項になっていたと感想を聞いたことがあります。アマチュアにしてみると、自分の写真を多くの人に見てもらいたい、そしてできたら「良い写真ですね」とほめてもらいたいと思ったら、巣や雛の写真を応募してはダメだったのです。少なくとも、野鳥の写真を撮る人はそうしたマナーが存在することをどこかで見聞きしていたことになるでしょう。

ところが、インターネット時代となり、誰でもWeb上に写真をアップすることができるようになりました。ブログにアップすれば、仲間からほめてもらえます。”拍手”や”良いね”をもらうことは簡単になりました。かつては、一部の人にしか許されなかった多くの人に写真を見てもらうという行為が、個人でも簡単にできるようになってしまいました。それには、マナーを考える必要はなくなってしまったのです。

つくづく思うのは、野鳥写真の楽しみは撮るだけでは無かったのです。撮れた写真を人に見せて評価をもらうことも楽しみのかなりを占めていたことになります。その行為が、ネットの発達により無制限になったとき、マナーはどこかに行ってしまったことになります。

では、日本野鳥の会が業界を牛耳ることでマナーが浸透して行くことが、理想かというとそうとは思いません。一つの組織が席巻して発展する業界なんてあり得ませんし、健全とは言えません。さまざまな組織があって、競争原理が働く業界であってこそ発達して行くのだと思います。

現在、バードウォッチング業界のパイが大きくなった分、日本野鳥の会が占めているシェアは狭くなっています。それを補っている組織が野鳥へのつきあい方をたえず発信してこそ、バードウォッチングのマナー、写真撮影のマナーを浸透させていくしかないのだと思います。