≪スタッフ・有志の連載≫
 <第18回> 風の音にぞ…
 ============ by 漂鳥

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  第18回 One day in October.
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ときに夏日を記録することもあるほど、10月の声を聞いても相変わらず気温は高いまま推移していて、金木犀なども例年より数週間遅れてようやくその芳香を辺りに放ち始めました。それでも夜遅い時間に南東の空を見上げると、いつの間にかオリオンが姿を見せるようになってきています。
吹く風が北寄りになると季節は移ろい、空気は乾き、空は青み、私たちは中秋を迎えました。

そんな中秋、よく晴れた10月のとある日曜日、私はフィールドへと赴きました。



AM9:00
もっと早く起きる予定だったが、ともかくも家を出る。
10月のほとんどルーチン化した行動として、自宅近くから南へ何qも続くM田圃の真ん中を流れるS川沿いに、今日もノビタキを探す。当地の秋のノビタキは稲作農地でも見られるが、主に畑で観察されることが多い。ただし一ヶ所に長居することはなく、滞在はせいぜい3日。今年は9月末から4カ所で観察できたが、早いものでは翌日にはもう見られなかった。
つまりノビタキに出会えない日の方が断然多いというわけだが、それが切なくて切なくて、なのに楽しい。
なぜって昔、郷ひろみも歌っていたではないか。

 ♪会えない時間が 愛育てるのさ
 ♪目をつぶれば きみがいる…   (よろしく哀愁)

幸運にも出会えたときのノビを。


AM10:00
いつものようにノビにフラレたので、15分ほど先の葦原へ向かう。

AM10:48〜PM12:15
今日は雲一つない快晴。およそ900m×600mの葦原では青空も広い。葦原を囲む小高い土手の上でデジスコをセットして待つと、最初に姿を現したのが、この辺りを縄張りにしているモズの雌。ワイルドな景観にモズはよく似合う。
花の少なくなるこの時季、足元に広がるセイタカアワダチソウには多くの秋型昆虫が集まる。キタテハは数も多いしそんなに派手ではないけれど、まるで幼馴染みのような愛着を覚える。
暫くするとダイサギが飛んできて、漁が始まった。浅瀬で慎重に真剣に漁に取り組んだ彼(彼女)は、ついに食べごろのへら鮒を捕まえた。



PM1:57〜2:41
この葦原は長い間目的のよく分からない工事が行われていた。本来は遊水池・調節池としての機能を果たすために存在していて、工事はそのためだったのらしい。首都圏にほど近い場所で、これほどの規模の葦原はとても貴重であろうと思われ、それが証拠に生き物は鳥のみならず動植物も豊富に存在している。猛禽なら、年間を通しておよそ11種類―オオタカ ハイタカ ノスリ チョウゲンボウ ハヤブサ トビ サシバ チュウヒ ハイイロチュウヒ コミミズク ミサゴ―が観察される。動物ならタヌキやイタチの他にキツネも観察されている。当時から生態系保護協会の会員が定期的に生物調査を行い、工事主である県に遊水池としての在りようをアドバイスしていたようだ。ちょうどこの日も協会の探鳥会が行われていて、会を終えた後、会員の方と1時間余り貴重な意見交換ができた。私自身は7年ほど前から定期的にここへ通い、当時から水鳥と、それを狙って集まる猛禽を多く見てきた。当時は足元から飛び出したコミミズクに驚き、ベニスズメの群れに驚き、そこかしこから聞こえるベニマシコの声に驚き、池の土手の向こうから突然現れたオオタカと、逃げ惑う多くの数の(数百羽はいただろう)水鳥に驚き、コハクチョウの親子の姿に感動し、目の前をミコアイサがカンムリカイツブリが泳ぎ、今年も観察されたクロハラアジサシが飛び、チュウヒがすぐ頭上を飛んだものだったな…。

と、感慨に耽っていたら、チーという例の鳴き声とともにカワセミが背後から飛んできて枯れ葦にとまった。なかなかイイ雰囲気なのでこれを撮る。遠くとも小さくとも、自然のなかのカワセミはやはり美しい。人々を魅了するカワセミだが、意外にもこんなワイルドな景色にもよくとけ込む。
数はまだ多くはないもののカモ類が随分そろってきた。コガモやカルちゃんの飛びものを撮っていたら、遠くを2羽のカモが並んで泳いでいる。双眼鏡で覗くと、ホシハジロとキンクロハジロだ。異種なのに、まるでペアのように仲睦まじく泳いでいる。と、突然飛び始める!
ふたたびダイサギがやってきて、すっと立ち止まる。そのシンメトリーを撮ってみる。


現在はこの葦原の工事も終わり、葦原中央部にあった道も取り払われ、よって観察は葦原を取り囲む高い土手の上からのみとなり、鳥が遠いのが難だ。けれどもこのことは鳥にとってはもちろん幸いなことで、おそらくそのせいもあって、一昨年からコハクチョウのほかにオオハクチョウも飛来するようになり、昨年など最も多い時は両種合わせて28羽見られたと、これもこの葦原をいつも観察されている方が仰っていた。
猛禽にしても、以前はチュウヒなどはそう多くは見られなかったが、今は毎年安定して複数羽を見ることができる。ちなみにこの日も近くを飛んでくれることこそなかったものの、2羽を観察できた。先述のようにその種類も増え、このフィールドはもう少し熟成すればなかなか良い環境になるに違いない。しかも鳥が遠いのと、いつでもお手軽に鳥が見られるわけでもないので、探鳥をしない、鳥を待てないような昨今増えているカメラマンはやってこないので、比較的静かな鳥見ができるのも幸いだ。
ただ「やってはいけません」の貼り紙があるにもかかわらず、その一角でラジコンを飛ばすおじさんたちが何人もいることは嘆かわしい。一度ラジコンが飛び始めると、それまで元気な姿を見せていたアリスイなどもどこかへ行ってしまうし、猛禽も近くを飛ぶことはない。人の趣味に難癖をつける積もりは毛頭ないが、やってはいけないと分かっていることは止めてもらいたい。

PM3:20〜4:01
つらつらそんなことを考えていると、遠くをアオサギが飛ぶ。そしてようやくチュウヒが飛ぶ。どちらも何百メートルも先だが、構わずシャッターを切る。おまけに、この日ではないが過日撮影したアリスイを合わせて掲載する。背後の黄色はセイタカアワダチソウの群落だ。


PM4:31
時刻は午後4:30を回る。随分日も短くなり、西日が葦や樹木の長い影を作る。ふと振り返ると、オギの群落が西日に輝いているのでこれを撮る。カワセミが目の前に留まったけれど、もう撮影はせずにじっと見つめていると、程なく彼は下流に飛び去った。再び葦原に目をやれば、夕陽色に染まった葦の群落のさなかを、今日の寝場所へ帰るカモたちが飛び去って行った。




この日は日曜日だったので、私としては随分長くフィールドに留まっていました。シャッターを押した回数は766回。多くもなく少なくもなくといったところでしょうか。
ほとんど普通種であるしほとんど何百bも先の鳥ばかりでしたが、被写界深度の狭いデジスコといえども環境を取り込んでの撮影ができるので、個人的には楽しめるフィールドです


秋はまだ1ヵ月ほど続くことでしょう。柿の実が熟れ、そこへメジロやヒヨやコゲラが、来月にはツグミもやってきて美味しそうに食べることでしょう。
そして晩秋から初冬を迎えると、本格的な葦原シーズンになります。秋冬の情緒は枯れススキや枯れ葦にも宿ります。それは日本の野辺の景色の点景として、私たちのココロにも宿ることでしょう。

(了)