≪野鳥観察情報≫
   バードウォッチングのミカタ
 ======== by 松田 道生さん

───────────────────
  第57回 野鳥産業が成り立つ時代
───────────────────

たとえば、先日歩いた早春の戦場ヶ原では、行き交う人の多くが双眼鏡をぶら下げたり、長い望遠レンズ付きのカメラを持っていました。1人で歩いている人もいれば、数人のグループもいます。ようするに野鳥が目的の人が多いのです。私の実感では、初冬から早春の観光客の少ない戦場ヶ原は、バードウォッチャーとしか出会わないと言っても過言ではありません。

都内の公園でも探鳥地として紹介されているようなところでは、すれ違う人の多くが野鳥目的であることがあります。ここ10年で、バードウォッチングや野鳥の写真を撮っている人が爆発的に増えた印象があります。そのおかげで、野鳥関連で成り立っている会社も増えて来たのではないかと思っています。デジスコドットコムのような会社があったり、バードウォッチング専門の旅行会社が成り立っていることからもうかがえます。

私が勤めていた日本鳥類保護連盟では、機関誌を発行していました。1960年代当時ですが、広告取りに奔走された役員の方がいて、その方の話では「双眼鏡を売っているのだからN社に行ったが、けんもほろろに断られた」と嘆いていました。要するに当時は、バードウォッチングのために双眼鏡が売れるなんて思っていなかったことになります。そのN社が、今では関係雑誌に必ず広告を出稿しています。以前、N社の担当者と話したことがありますが「バードウォッチングほど必ず双眼鏡が必要な趣味がない、バードウォッチングが普及すれば双眼鏡が売れる、バードウォッチングの普及を手伝いたい」というスタンスでした。いずれにしても、時代が変わったことになります。

アメリカやイギリスでは野鳥関連団体の会員数が、日本の10倍を超えています。バードウォッチャーの数は、その何倍にもなるでしょう。それだけの人が、野鳥を見ているのですからバードウォッチングは一大産業として成り立っていることになります。アメリカの1980年代の古い数字ですが、庭に来る野鳥にやる餌代だけでも400億円市場と言われていました。それだけの作物を作る人がいて流通させ販売するとなると、関わる人たちも多いことになります。餌代だけでもこの数字なのですから、全体では1兆円規模になっていたかもしれません。市場に関連している人たちの中には、野鳥を守ろうという考えをすんなりと受入れてくれる人が多いと思います。そういった人たちが、たくさんいて票田になれば、議員も動いてくれます。この連鎖が、欧米の自然保護が発展する力のひとつになっているのではないでしょうか。

ですから、バードウォッチングが普及し野鳥を趣味にする人が増えれば、その人たちにモノやソフトを供給する人たちも増えることになります。そこには、雇用が生まれ、その結果生活をかけている人たちが、たくさんいることになります。そうなれば、野鳥を保護し守ろうという呼びかけをした場合、多くの人が賛同してくれる社会になるのではないかと思っています。

野鳥が産業として成り立つ時代になって、野鳥を守ることはたやすくなると考えるのは、時期尚早でしょうか。